クローン病

カプセル内視鏡で検査

クローン病は、病気の勢いがある「活動期」と、安定した状態の「寛解」を繰り返します。完治はしないので、炎症を抑えて寛解を長く保つのが治療の目的になります。日本では2007年に承認されたカプセル内視鏡は、従来の管状の内視鏡では届かなかった小腸の検査を可能にしました。飲めば勝手に消化器を通り内部を撮影してくれ、患者の負担も少ないです。


クローン病に詳しい全国の専門医師一覧

竹中一央

獨協医科大学、会津医療センター

竹中一央・獨協医科大学、会津医療センター

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大腸カプセル内視鏡導入 福島初 飲み込むだけでOK 会津医療センター

■2014年9月
会津若松市の福島医大会津医療センターは今年夏から最新の大腸カプセル内視鏡を導入し、本格的に運用している。飲み込むだけで検査でき、痛みなどの身体的・精神的負担が少ないのが利点。同センターによると県内で初めての導入で、検診受診率の向上や疾患の早期発見に役立つと期待されている。

導入したのはイスラエルのギブン・イメージング社の日本法人が製造販売する「PillCam(R)COLON2」(ピルカム・コロン2)。長さ約三センチ、直径約一センチで両側に小型カメラが付く。下剤とともに飲み込むと、四時間ほどかけて消化管の中を進み、撮影した動画を記録装置に転送して排出される。医師がモニターで動画を見て診断する。

肛門から管を挿入する従来型の内視鏡は痛みや恥ずかしさから敬遠されることも多い。今年一月から、腹腔内に癒着がある、腹部の手術歴があるなど従来型の内視鏡検査が実施困難な場合に、カプセル内視鏡検査に保険が適用されることになった。

同センターは六月から導入し、これまでに十五人に実施してポリープなどを発見している。「楽だった」との感想が多いという。

同センター小腸・大腸・肛門科学講座の冨樫一智教授(54)=喜多方市出身=は「がん患者の部位別死亡者数は大腸がんが上位で、検診受診率の向上が課題となっている。受診者にとっては心身の負担が少ない新しい選択肢が増え、いいことだ」と話している。


潰瘍性大腸炎・クローン病講演会~獨協医大病院消化器内科

■2010年3月、栃木県鹿沼市

「潰瘍(かいよう)性大腸炎・クローン病講演会」が16日午後1時30分から同3時まで、栃木県西健康福祉センターで開かれる。

足利赤十字病院内科、獨協医大病院消化器内科の富永圭一(とみながけいいち)医師が「炎症性腸疾患の基礎知識」と題して講演する。潰瘍性大腸炎、クローン病の患者とその家族が対象で、定員20人。参加無料だが、事前に申し込みが必要。申し込み、問い合わせは栃木県西健康福祉センター健康対策課栄養難病担当。


クローン病 再発、再燃を予防 抗TNFα抗体製剤 炎症抑え寛解を保つ 普通の食事も可能に

2011年5月14日、神戸新聞

消化器系の病気

クローン病は、大腸や小腸などの消化器で炎症が起き、潰瘍(深い傷)ができる病気。病気の勢いがある「活動期」と、安定した状態の「寛解」を繰り返す。完治はしないので、炎症を抑えて寛解を長く保つのが治療の目的になる。

病変は口(こう)腔(くう)から肛門に至る消化管のどこにでもできる。中でも腸が最も多く、傷ができたり治ったりを繰り返すうちに、

  • 一部が引きつれて腸管が狭くなる(狭(きょう)窄(さく))
  • 腸管が詰まる(腸閉(へい)塞(そく))
  • 腸管同士や腸管と膀胱などをトンネルの穴のようにつなぐ(瘻(ろう)孔(こう))

などの合併症が生じ、手術が必要になることも多い。

厚生労働省指定の特定疾患(難病)で、医療費の公費負担がある医療受給者証を持っている患者は2010年3月末現在、全国で3万891人。男性と女性では2対1の割合。原因はよく分かっていないが、体質や環境など複数の要因が複雑に絡み、免疫の異常反応が生じていると考えられる。欧米に多い病気だが、近年は日本でも増えていることから欧米型の食生活も一因とみられている。病名は最初に報告した米国の医師の名前に由来する。

10~20代で発症、高い手術率 栄養療法でも症状改善

クローン病は若い年齢で発症することが多く、初診時は10~20代が中心となる。病歴が長くなるほど合併症が増加。手術率も発症後5年で3割を超え、発症後10年では約7割と高い。

手術は根本的に治す治療ではなく、術後も残った腸管が炎症を繰り返すことが多い。病変部分の切除手術を重ねると腸が短くなるため、栄養が吸収できなくなる恐れもある。薬や栄養療法など内科的な治療で炎症を抑えることが重要になる。

従来、欧米ではステロイド剤が使われてきた。炎症を抑える作用が強いが、副作用が問題となるため、日本国内では積極的には使われてこなかった。現在でも炎症が強い場合に使うのが基本だ。

短期的な副作用としては細菌に感染しやすくなり、肺炎を起こすことがある。血糖値も上がりやすい。長期的には、骨がもろくなったり、うつ状態になるなど精神的な症状が出たり、自分の副腎皮質が働かなくなったりする。

青山内科クリニックの青山伸郎院長は「炎症を鎮める作用はあるが、長期的に寛解を維持する効果は認められていない。沈静化したら、徐々に量を減らすべきだ」と話す。

抗TNFα抗体製剤はステロイド剤に比べて副作用が少なく、栄養療法よりも効果が高い。肛門周辺に瘻孔ができる「痔(ぢ)瘻(ろう)」にも効き、この合併症での手術を避けられるケースも出てきた。1回当たりの入院期間も短くなり、兵庫医科大病院では2004年に平均で1カ月だったのが、2008年には19日間にまで短縮した。

一方、栄養療法でも症状の改善は見られ、薬ではないため副作用がないという利点がある。兵庫医科大病院の松本譽之IBDセンター長は「薬物療法も栄養療法も選択肢の1つ。医学的な理由も考えた上で、自分に合った方法を選んでほしい」と話している。


増え続けるクローン病 患者2万5000人、原因不明 多様な症状、負担も大きく/医療・健康

2008年5月18日、西日本新聞

小腸、大腸の粘膜を中心に慢性の炎症や潰瘍(かいよう)ができる原因不明の消化器疾患「クローン病」。厚生労働省の特定疾患(難病)に指定され、現時点では根治する手段が確立されていない。日本でも患者が増えているクローン病について、特徴や治療法などをまとめた。

QOL低下

クローン病は10-20代の若い年齢層に患者が多く、口から肛門(こうもん)まで消化管のどの部位にも炎症などが生じる。腹痛や下痢、発熱、体重減少などが主な症状だ。重くなると、普通に食事が取れず、チューブによる栄養補給を余儀なくされるなど、患者のQOL(生活の質)は著しく低下する。

さまざまな遺伝子と環境因子が複雑に絡み、免疫系に異常が発生するのが原因と考えられている。先進国、中でも北米や北欧で高い発症率を示すことから、動物性タンパク質や脂肪を多く摂取する食習慣などが影響しているという説もある。

厚労省などによると、難病として医療受給者証の交付を受けた日本国内の患者数は1989年度に5000人を記録。以降、年1000人前後の勢いで増え続け、2006年度には約2万5000人に上った(九州・山口では約3700人)。

困難な診断

福岡市内に住む10代後半の男性は、年明けから下痢と38度の高熱に苦しみ続けた。九州大学病院(福岡市東区)での内視鏡検査で、腸の粘膜に大小の隆起が密集し、まるで石を敷き詰めたように見える「敷石像」が見つかった。主にクローン病と潰瘍性大腸炎によって引き起こされる炎症で、ほかに現れた病変などからクローン病と診断された。

九州大学医学研究院病態機能内科学の飯田三雄教授と松本主之(たかゆき)講師は「クローン病の症状は多彩で、病変も(小腸や大腸など)部位によって非常に幅がある」と説明する。しかも、「敷石像」のように別の消化器疾患と似た病態を示し、クローン病だけにみられる病態はないことから、誤診しないためには慎重な診断が求められる。

実際、ある20代=当時=の女性は1993年ごろから腹痛やおなかの張り(腹部膨満感)を訴えていたが、どの医師からも「原因不明」とされ、拒食症を疑われたり、腸閉塞(へいそく)と診断されたりした。紹介を受けた九大病院でクローン病と診断されたのは2003年。それまで3つの病院に通ったという。

高額な薬価

根本的な治療法はなく、医師は症状を軽減・維持する栄養療法や薬物療法を選択する。ただし、栄養療法は、鼻の穴から胃や十二指腸までチューブを通したり、心臓近くの太い静脈にカテーテル(細い管)を挿入したりしてブドウ糖などを直接体内に送り込むもので、時間もかかるため患者の負担が大きい。

薬物療法で主流なのは遺伝子組み換え技術による生物学的製剤「インフリキシマブ」の投与。日本では2002年に承認され、保険も適用される。関節リウマチの治療にも効果を挙げている。

前述した福岡市内の男性の例では、インフリキシマブを早い段階に投与し、約2週間で血液中の炎症反応が消えた。松本講師は「長期的な症状の軽減・維持に非常に有効」と強調する。ただ、インフリキシマブは高価で、100ミリグラム当たりの薬価は約10万円。体重60キログラムの人で、1回に約300ミリグラム(薬価約30万円)の投与が必要という。人によって頻度はまちまちだが、継続的な投与が望まれるため、保険が適用されるとはいえ、患者の負担感は少なくない。

加えて副作用も十分に解明されていないといい、松本講師は「患者や家族にはリスクを最大限説明しなければならない」と話す。

飯田教授は「クローン病は困難な病気だが、多くの場合は適切な治療で症状を沈静化させ、緩和することができる。病と上手に付き合うことができるよう、患者側の十分な理解と協力を得ながら治療と研究を進めていきたい」と話している。


カプセル内視鏡 従来型届かぬ小腸に威力 水でのみ、便で排出 少ない負担 薬による潰瘍やクローン病 『異常9割見つかる』

2009年7月24日、東京新聞

日本では2007年に承認されたカプセル内視鏡。従来の管状の内視鏡では届かなかった小腸の検査を可能にした。のめば勝手に消化器を通り内部を撮影してくれ、患者の負担も少ない。その実力を探った。

70代の男性は血便が出たため、昭和大横浜市北部病院消化器センターを受診した。口からの内視鏡で胃などを、大腸内視鏡で大腸検査を受けたが、出血の理由はわからなかった。小腸の異常が疑われ、カプセル内視鏡の検査を受けることになった。小腸は長さが6~7メートルあり、従来の内視鏡では届かない。

検査開始8時間前から飲食を控え、ウエストポーチ大の受信装置を腰に取り付けてから、カプセル内視鏡(オリンパスメディカルシステムズ社製)を水とともにのんだ。

カプセル内視鏡は外径11ミリ、長さ26ミリの大きさ。内部にCCDカメラ、LED照明、小型電池、無線送信装置が組み込まれている。本体価格は9万円近いが健康保険適用で患者負担は3割だ。

食道、胃、腸へと自然に流れながら、1秒間に2枚、合計約6万枚を撮影する。無線で送信され、受信装置が画像データを保存する。撮影中でも撮影画像を同時に見ることもできる。

「胃をぬけて腸に入ったと確認されれば、病院外に出ることもできる。ほとんどの患者は散歩に出ます」と昭和大横浜市北部病院消化器センターの大塚和朗准教授(消化器内科)は手軽さを説明する。

のんで4時間たつと、食事もできる。8時間たつと検査は終了。カプセル内視鏡は排便とともに体外に出る。患者が回収する。画像データはパソコン上で、出血場所など赤い部位を拾い出すコンピューターソフトを利用しながら分析をする。

検査で見つかる小腸の疾患は、以下の通り。

  • 消炎鎮痛剤による潰瘍(かいよう)
  • 小腸血管拡張症▽炎症性腸疾患(クローン病)
  • 腫瘍(しゅよう)

カプセル内視鏡で見つけた潰瘍は、正常な部位と比べて潰瘍の存在がよく分かる。この患者は服用していた消炎鎮痛剤が原因で潰瘍ができたと推定され、服用をやめたら血便は止まった。

大塚准教授は「欧米の研究では、小腸に限れば、異常の九割を見つけることができる」と検査精度の高さを強調する。

出血が続いている場合など、口からのバルーン内視鏡で止血などの治療を行う。バルーン内視鏡は風船を膨らませたり縮めたりしながら、尺取り虫のように進む。大塚准教授は「カプセル内視鏡で異常が見つかった人の2割程度に対し、バルーン内視鏡を使う」と説明する。

ただ、胃や大腸と比べ、小腸の疾患は少なく、カプセル内視鏡で検査を受ける人数は年間で1万人未満と推定されている。繰り返して使用もできないため費用が他の内視鏡検査に比べ割高だ。

現在、カプセル内視鏡は、小腸よりもがんの発生が多い食道、胃、大腸の検査への応用が期待され、実用化されれば患者の検査への負担はさらに減る。実際、欧米の一部では食道用、大腸用が実用化されつつあるという。

また、体外からの誘導で、医師が観察したい部位へ内視鏡を移動できるようになれば、検査の幅が格段に広がり、患部をねらった薬剤の放出などの治療も可能になることから、開発が進められている。愛知医科大病院内視鏡センター、名古屋大医学部付属病院でも受診できる。